雑音に埋もれた微少信号を測る
 ロックインアンプの測定原理

基本原理(高級ラジオ回路で知られているヘテロダイン技術を応用)
参照信号と等しい周波数成分の検出を行い,
測定信号から情報を得る。


入力信号 → 同期検波回路(PSD) → フィルター(LPF) → 出力
            ↑
参照信号 → 位相調整回路(PS)


参照信号:ヘテロダインラジオの局部発振 (Local OSC)信号に相当する。ロックインアンプでは参照信号と呼び、外部から参照信号として入力する。 位相調整回路(Phase Shifter)により測定信号と参照信号の位相差を0とし,PSDに入力する。位相差0の時に,PSDは適正な出力(入力信号の振幅値)を与える。この方式を「1位相ロックインアンプ」といい,研究室ではNF5600等がある。また,「2位相ロックインアンプ」は2つのPSDを用いることで位相調整を不要にしたものもある。

同期検波回路(Phase Sensitive Detecter): この参照信号と等しい周波数成分の検出を行なう。この回路の1例としてDBM(Doubly Balanced diode Mixer)がある。測定信号と参照信号の位相差が0の場合,入力信号を全波整流した出力信号となる(直流成分に変換したことになる)。位相がずれると出力信号は大きく変わり交流波のようにもなる。

フィルター(Low Pass Filter): 雑音除去能力はLPFのカットオフ周波数で決まる。例えば10kHzの測定時、1mHzのLPFを使用すると、等価的には10kHz±1mHzのバンドパスフィルタ(BPF)と同じ雑音除去能力になる。これをQに換算すると5×106に相当する。 LRC回路では、これほど高いQを持つBPFの製作は不可能である。ロックインアンプは、LPFのカットオフ周波数が多少狂っても、直流さえ通過できれば測定結果に大きな影響は出ない。

「ダイナミックリザーブ(Dynamic Reserve)」(ロックインアンプの重要なパラメタ): 通常の電圧計には測定レンジがあり,設定レンジを超える場合にはレンジを変える必要がある。ロックインアンプも電圧計であるので,測定レンジがある。しかし,ロックインアンプは雑音に埋もれた微少信号を測定するため,通常の測定レンジの他に“ダイナミックリザーブ(DR)”と呼ぶパラメタがある。測定レンジの何倍までのノイズを許容できるかを示している。定義式は DR[dB] = 20 log10(最大許容雑音電圧Vpp/測定レンジVrms)である。
通常,測定信号に合わせ、DRを可変できる。例えば、「0.1mVrmsの目的信号に対して0.1Vrms(≒0.8Vp-p)のノイズが重畳された信号を測定する」場合,測定レンジを0.1mVレンジに設定すると、78dB以上のDRが必要となる。

脚注

位相調整回路(PS):
コンデンサーと抵抗(OPアンプで減衰しないようにする)で位相回路を作る。


NF5600の場合から:

出力部:
X(A cos φ), Y(A sin φ)
SIN MON:入力信号モニタ出力(フィルタ通過後)
PSD: PSD のアナログ出力

AUTO機構:
AUTO SET:入力信号に応じDynamic Reserve,周波数レンジ,時定数およびフィルタ周波数の自動設定。
PAHSE SET: PSDの出力が入力信号の振幅値を示すようにREFの位相を自動設定。
AUTO RANGE:入力信号に応じ感度を調整
AUTO TUNE: REF周波数に応じ,周波数レンジやバンドパスフィルタの周波数を自動設定。
AUTO NORMALIZE: X,Yの値を基準値でdB化する。


ロックインアンプは微少信号測定専用の(特殊な)交流電圧計である。